朝、いつものようにパソコンを開いた。
Slackに通知が一件。
上司からのダイレクトメッセージだった。
「東京本社への異動が決まりました。近日中に引っ越してください。」
それだけだった。
電話もなく、面談もなく、ただ短い文字が画面に並んでいた。
56歳の私の暮らしを大きく動かす知らせが、Slackの通知音と一緒にやって来た。
Slack一行で届いた異動命令
私は、診断書を出していた。
心と体の不調が続いていて、これ以上、急な環境の変化は避けたい――そうお願いをしていた。
住み慣れた街に居続けたいのは、わがままではなく、いまの自分が日々を保つために必要なことだった。
医師の言葉を添えて、丁寧に伝えたつもりだった。
それでも、返ってきた答えは「近日中に引っ越してください」。
診断書も、お願いも、私のこの一年も、その一行の前ではあまりに軽かった。
会社は言葉にはしない。
書面にも、面談の場にも、はっきりとは出てこない。
けれど、Slackのあの一行が、何より雄弁だった。
――もう、あなたを必要としていません。
そう言われたのと同じだった。
東京採用、家賃補助打ち切り――実質の減給
そして、よく考えれば、ここから先の展開も、なんとなく見えてくる。
東京へ異動になれば、これまで支給されていた家賃補助は打ち切りになる。
「東京採用」という扱いに切り替えられ、今後の家賃は丸ごと自己負担。
東京の家賃はとても高い。
手取りで考えれば、それは実質の減給と同じことだ。
さらに、いまついている役職手当も、いずれ何かの理由をつけて削られていくのだろう。
「業務内容の変更」「組織再編」――言い訳の言葉なら、会社はいくらでも持っている。
これは、退職へ仕向ける会社のやり方
会社のやりそうなことは、もう目に見えるようにわかる。
正面から「辞めてくれ」とは言わない。
けれど、住む場所を変えさせ、収入を少しずつ削り、役職を外し、居心地を悪くしていく。
そうやって、本人の口から「辞めます」と言わせる。
これは、私を退職へ仕向けるための、会社のやり方なのだと思う。
辞めてもいいかな、と一瞬よぎる。
休職してもいいかな、とも思う。
診断書も出している。
心と体は、もうずいぶん前から、限界のサインを出している。
それでも、私は「居座る」と決めた
それでも、いま、私は少しだけ違うことを考えている。
会社が私を追い出したいのなら、私が会社にできることは、居座ってやることだ。
怒鳴ったり、抗議したり、目立つことをするわけじゃない。
ただ、淡々と、決められた仕事をして、決められた時間に帰る。
会社が用意した「辞めたくなる仕掛け」に、簡単には乗らない。
しんどさには、うまく逃げる
ただし、無理はしない。
精神的に自分がしんどくならない程度に、だ。
プライドのために体を壊したら、本末転倒になる。
あくまで、自分の老後の暮らしのために、いま会社からもらえるものは、もらえるだけもらっておく。
それは、わがままでも意地悪でもなくて、これからの長い時間を生きていく自分への、まっとうな投資だと思う。
会社はきっと、これからもジワジワと私を追い詰めてくる。
家賃補助の打ち切り、手当の削減、合わない業務、面倒な指示。
どれも、一つひとつは小さな針のような出来事だ。
けれど、その針の数で人を辞めさせるのが、会社という場所の上手いところでもある。
だから、私はあらかじめ、そう思っておくことにする。
「会社は、これから私を追い詰めにくる」。
覚悟しておけば、いちいち驚かなくて済む。
傷つきの深さも、少しは浅くできる。
これからの「静かな退職」のかたち
Slack一行で動かされた一日は、たぶん、これからの長い「居座りの日々」の始まりでもある。
しんどくなったら、ちゃんと休む。
診断書も、産業医も、制度も、使えるものは使う。
それでもなお、自分の足で立ち続けて、自分の取り分は静かに受け取る。
それが、いまの私にとっての「静かな退職」のかたちなのだと思う。

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